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東京上空のカラースモーク

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発売中の『航空ファン』10月号で紹介しているとおり、
今回の東京上空でのオリンピック・パラリンピックフライトでは、
昨年の聖火到着式に続いてブルーインパルスはカラースモークを使用しています。

ブルーインパルスは、このカラースモークについては
F-86Fの時代から1990年代の終わりごろまで使っていましたが、
環境への配慮などさまざまな事情からその後使用されなくなり、
ホワイトスモークでの展示が20年以上続いてきました。
今回、東京オリンピックの開催が決まって以降、
五輪を描くことを想定してカラースモークを復活させたわけですが、
じつは「復活」といっても以前のものとはまったく違う新開発となっています。

以前のカラースモークは白いスモークの元になる
発煙油(スピンドルオイル。本来の目的は工業製品の加工などに使用される切削油)に
それぞれの顔料(染料)を混ぜたもので、航空祭の前週に整備小隊でその混合作業を実施、
ドラム缶に入った発煙油に一斗缶から顔料を注入し、
丹念に攪拌するという作業を毎回行なっていました。
それでも顔料は沈殿してしまうため、機体に給油する直前、
各機の近くまでオイルを運ぶ際には、あえて足で蹴とばしながらゴロゴロ転がして
最後の攪拌をする作業を見ることができました。
ちなみに、そうした作業をしても、状況によっては
顔料の小さな粒が地上まで落ちてきてしまうことがあったようです。

今回のカラースモークは、防衛省と契約した企業が新たに開発した、
粒子が細かく、揮発性の高いものとなっています。
発色にはエンジンの排気温もかかわってくるそうですが、
今回のフライトで五輪が鮮やかに描くことができなかった大きな理由のひとつは、
その環境に配慮した揮発性の高さで、
ノズルから噴出された後、予想以上に早く霧散してしまったことが
上げられるのではないでしょうか。
第11飛行隊ではこうした状況に対応すべく、
オリフィスと呼ばれるスモークオイルの噴射ノズルに取り付けられる噴射口の径も
少し太いものに変更しましたが、今回は上空にあった雲や、
その高度域にあった微風の影響を受けたこともあり、
思った効果が発揮されなかったのでしょう。
しかし航過飛行のパートでは、カラースモークを曳いて飛ぶブルーに対して
各所で大歓声や拍手が絶えませんでした。
コロナ禍におけるオリンピック開催に対するさまざまな意見はありましたが、
少なくともブルーインパルスのフライトに明るい気持ちになった人々が
一定数いたことは、間違いないようです。



ところで、今月号の表紙の上に配置したオンボードカメラの写真を見て、
気になることがありませんか? 
編集後記にも書きましたが、ノーマルT-4の後方につく機体の
尾翼に見えるポジションナンバーが、いつもと違うのです。
本来なら画面右、左翼側には2、5番機、画面左の右翼側には3、6番機の順でつくはずが
(画面に写っていない編隊長直後は4番機)、
4、2番機、6、3番機の順に並んでいるのです。
これは、カラースモークの見栄えを調整するための措置で、
今回編隊長機以外の全機が、いつもと違うポジションで編隊を組みました。

ちなみに、今回の展示のなかで行なわれた五輪を描く
「オリンピックシンボル」という課目は、
航空祭などでもたまに見るサクラという課目をアレンジして、
6機で5つの輪を描く構成になっています。
つまり6機のうち1番機だけは、スモークを出しません。
1番機は基準となるため、進入経路を確定させるとスモークを出さずに円を描きます。
そのほかの5機は進入時に徐々に間隔をとり、
サクラとは少し違う位置に占位して五輪マークに見える位置で1周するわけですが、
そのときの位置は下から見上げて左上(青)が3番機、真ん中(黒)が5番機、
右上(赤)が2番機、左下(黄)が6番機、右下(緑)が4番機となります。
そこで、そのスモークのまま通常の編隊を組むと、
下から見上げると左から黄、青、緑、赤、黒となってしまい、
オリンピックカラーのイメージと違ってしまうので、青、黄、黒、緑、赤と
並ぶように航過飛行の際にはポジションを入れ替えて
ワイドデルタ隊形を組んでいたというわけなのです。
いつもと違うポジションで臨み、長時間その態勢を維持する編隊飛行は
けっして簡単ではなさそうですが、それもしっかりとこなすあたり、
さすがブルーインパルスという印象です。


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